わたしたちの憲法を考える(1)前文1

 
             日本国憲法と聞くと,憲法改正の問題を連想されるかたも多いと思います。
 しかし改憲派も護憲派もそうなのですが,中には憲法をほとんど読んだことのない人もいます。憲法9条しか知っている条文がないという人もいるでしょう。

 改正問題をするのは大いに結構ですが,まず憲法を知る。ここから初めて見てはどうでしょうか。
 読んで改憲派が護憲派になることもあるし,またその逆もあるかと存じます。

 これから不定期ではありますが,日本国憲法を読み進めていくエントリをたてていきたいと思っています。
 今回は「日本国憲法前文」です。少し長いので,今日は半分だけ。
 読み進めるにあたっては,憲法の理解のためにもGHQ草案を併記することとします。

(必要に応じて改行しています。)

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
 そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 We, the Japanese People, acting through our duly elected representatives in the National Diet, determined that we shall secure for ourselves and our posterity the fruits of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land, and resolved that never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government, do proclaim the sovereignty of the people's will and do ordain and establish this Constitution, founded upon the universal principle that government is a sacred trust the authority for which is derived from the people, the powers of which are exercised by the representatives of the people, and the benefits of which are enjoyed by the people; and we reject and revoke all constitutions, ordinances, laws and rescripts in conflict herewith.

 法学部卒のかたは分かると思いますが,きっと憲法の前文なんて授業で触れられたことはほとんどなかったでしょう。
 前文の一つ一つを丹念に読んだ人なんて,法学部を出ていたとしてもほとんどいないのではないでしょうか?

 法律論としては,法規範性はあっても裁判規範ではない,と言われることがあります。早い話が,憲法の内容であっても,前文の内容に違反したからと言って「前文違反」であると裁判で主張できないということです。

 内容を見ていきます。

 <わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保>
 簡単に言えば,人は自由がある。基本的人権が保障されている,ということを謳っています。

 <政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意>
 平和主義の原理が謳われています。

 <ここに主権が国民に存することを宣言>
 国民主権の原理が謳われています。
 ここまでの前文冒頭で憲法の三代原則(基本的人権の尊重,平和主義国民主権)が明記されたことになります。

 (ここに主権が国民に存することを宣言し,その国民が)<この憲法を確定する>
 日本国憲法が民定憲法である,と言っています。

 <国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来>
 再び国民主権の原理を確認しています。
 
 <その権力は国民の代表者がこれを行使>
 代表民主制を採用する,としています。それゆえ憲法は限定的にしか直接民主政を認めていません(96条の憲法改正など)。

 <これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである>
 これまで述べてきた憲法の重要な原則が<人類普遍>(universal)であるとしています。
 穿(うが)った読み方をすると,ここら辺はいかにもアメリカの文章だな,と思わされます。
 これらの原理を採用するのは当たり前だ,これぞ人類だ,と言っているところに押しつけがましさを感じないわけではありません。
 そういうところに,戦争をするたびに「民主主義を広める」と言い続けてきたアメリカらしさが滲み出ているような気もします。

 <われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。>
 これはどのように読むかにもよるのですが,憲法に反する法律を許さないとしているという点で憲法の最高法規性を示していると言えますし,「これ」が指すものが憲法の諸原則であるとすると,憲法改正の限界を示していると言えます(とすると,憲法改正するとしても基本的人権の尊重や平和主義などの原理を覆せないということになります)。

* * *

 ここからは純粋な法律論ではないのですが,政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意>の一文は広く国民に議論されて然るべきだと思います。

 どういうことかと申しますと,GHQ草案を見ると分かりやすいのですが,憲法はthe horrors of war(戦争の惨禍)がthe action of government(政府の行為)through(によつて/のために)visit(引き起こされた)としており,穿(うが)った見方かも知れませんが,読み方によっては,過去の戦争は専ら「政府の行為」が全ての元凶と読めなくもありません。

 もちろん当時,国家の意思を決定していたのは「政府」(government)であったことは否定しません。
 しかしあの戦争の主体は「日本国」であり,現実として「日本国」が戦っていたわけです。それに「日本国」だけが戦っていたわけではなく,戦争には必ず相手国が存在します。今となっては,真珠湾攻撃の前に,アメリカが先制攻撃を予定したことが明らかになっていますし,必ずしも日本のgovernmentだけが戦争への参加を決定したわけでもありません。
 ならば,素直にあの戦争の原因を「the action of government」に求めるのには疑問を生じます。
 それにgovernmentにする必然性もなく,例えばstate(国家)でも良かったでしょうし,People(国民)でもよかったでしょう。また,戦争の原因について一刀両断に「誰それのせい」と言うことができないのであれば,わざわざthe action of governmentとすることもなかったと言えます。


 なぜ「政府の行為によつて」という書き方をしたのか,については今一度考える必要があると思います。
 ちなみに前文では「国家」という言葉が使われている箇所がありますし,「国民」という言葉も前文の中で多用されています。しかし唯一,この一文だけはわざわざ「政府」という言葉を使って,戦争の惨禍を引き起こした原因主体を断定しているのです。

 あるかたは,「歴史とは勝者の歴史であって,勝者が作るものだ」と言うかも知れません。なるほどそうすれば「政府の行為」とGHQが決めつけた理由も頷けます。
 また,それとは別に一つの推測ではありますが,「国家」としてしまうと敗戦後の日本国の占領に差し障りがあるとGHQが判断した可能性もあるかもしれません。
 「国家が悪かった」としてしまうと,天皇制を存続させる上でこれまで「国体」とされてきた天皇が傷つくことを回避しようとした可能性もあります(GHQ国体明徴問題に触れるわけにもいかないでしょうし)。

 いろいろな解釈が可能だと思いますが,みなさんはどのようにお考えになるでしょうか・・・

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tag : 天皇 日本国憲法 前文 法規範 政府 国家 GHQ 国体明徴 平和主義 国民主権

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