朝日新聞は労働市場の流動化に賛成らしい

 
            今週水曜日の朝日新聞の社説を御覧頂きたい。

 15.7%の衝撃 貧困率が映す日本の危機
 http://www.asahi.com/paper/editorial20091104.html?ref=any

 日本の相対的貧困率は、07年調査ですでに15.7%だったと長妻昭厚労相が発表した。約6人に1人が「貧困」という事実は何を意味するのだろう。〔・・・〕
 貧困の病根は何か。そして貧困は何をもたらそうとしているのか。
 経済のグローバル化により国際的な企業競争が激化し、先進各国で雇用の不安定化が進んだのは90年代半ばからだった。日本では労働力の非正社員化が進み、当時の自民党政権も政策で後押しした結果、3人に1人が非正規雇用という時代が到来した。〔・・・〕
 さらに深刻なのは、貧困が若年層を直撃していることだ。次世代への貧困の広がりは、本人の将来を奪うばかりではなく、税や社会保障制度の担い手層を細らせる。子育て適齢期の低収入は、まっとうな教育を受ける権利を子どもから奪い、将来活躍する人材の芽を摘んで、貧困を再生産する。
 これは、国家存立の根を脅かす病である。その意味で貧困対策は決して個人の救済にとどまらない。未来の成長を支える土台作りであり、国民全体のための投資だと考えるべきだ。〔・・・〕
 貧困率を押し下げるには、社会保障と雇用制度を根本から再設計することが必須である。それには「人生前半の社会保障」という視点が欠かせない。〔・・・〕
 新たな貧困を生まない雇用のあり方を考えることも必要だ。企業が人間を使い捨てにする姿勢を改めなければ、国全体の労働力の劣化や需要の減退を招く。正規、非正規というまるで身分制のような仕組みをなくすためには、同一労働同一賃金やワークシェアリングの考え方を取り入れなければならない。正社員の側も、給与が下がる痛みを引き受ける覚悟がいる

 この朝日新聞の社説は、直接的な物の言い方を避けているので、読み手としては解釈がたいへん難しい内容になっている。

 そもそも、社説全体を通じて相対的貧困率とは何かを朝日新聞は分かっていないような気もするが、それはともかくとして、朝日新聞は、これまで自分たちが書いてきた記事と矛盾する内容を社説の中で掲載している。

 それは、赤字で強調した部分に色濃く表れている。

 <正社員の側も、給与が下がる痛みを引き受ける覚悟がいる

 これは実に興味深い指摘である。
 これまで、雇用情勢悪化の中で行われた労働組合のベア要求を朝日新聞はどちらかというと好意的に報じていたし、経済状況が悪くなっているのは、ひとえに経営者の責任ではないか、とする指摘も目立っていた。

 しかし、上記社説を見る限り、そのような指摘は見られない。
 というよりは、朝日新聞がこれまで批判してきた小泉構造改革に接近し、一時期の竹中平蔵さんが言っていたようなことを繰り返し述べているだけのことのようにも思える。
 また、社説内で「労働力の需要」という言葉が使われているあたりを考えれば、朝日新聞は雇用市場の流動化を求めているようにも読み取れるのだが、そのような印象を覚えるのは私だけだろうか。

 まあ、朝日新聞をリベラルと思っている人にしてみれば、「朝日は当然のことを言ったまでだ」と思えるのかも知れないけれど・・・
  

theme : 貧困問題
genre : 政治・経済

tag : 朝日新聞 労働市場の流動化 非正規雇用 非正規社員 正社員 ワーク・シェアリング

弱者救済が不公平な一語に転化するとき - 派遣村に関する一連の行政の対応に関して

 
             <「住まいを」「働きたい」…派遣村から再出発への一歩>
 http://www.asahi.com/special/08016/TKY200901090306.html

 みなさんは「派遣村」というものをご存じでしょうか。
 ネット上では「派遣村」に関して賛否両論あるように思われますが,私個人としては基本的に支持してきました。
 もちろん一部で言われているように,「派遣村」の中には「派遣切り」の対象ではない人も含まれているようではありますが,一つのパフォーマンスとしては有効適切なものであって,問題はないと思っていました(一部行きすぎの点はありますが)。

 しかし私はこの朝日新聞の記事を見て,目を疑ったのです。
 

■250人に生活保護
 「派遣村」を出た元派遣労働者ら約250人に対し、東京都千代田区や練馬区などは9日までに、生活保護費の支給を決めた。

 「やけに支給決定が早いなあ」と思っていますと,次のような一文に目が留まります。

 通常は申請から決定まで2週間程度かかるが、千代田区は資産や親族の調査などは後回しにして支給を急いだという。

 いったいぜんたいどういった理由なのか,といいますと,朝日新聞は次のように報ずるのです。

 一斉に支給を決めた理由について、厚生労働省社会・援護局は「特定地域で大量の人がほぼ同時に保護申請したことや、入居施設の使用期限があるなど特別な事情があったため、集中的かつ優先的に支給した」と説明している。

  <特定地域で大量の人がほぼ同時に保護申請したことや、入居施設の使用期限があるなど特別な事情があった>??
 これは問題ではないでしょうか。
 生活保護を受けたいと望む者が一定の地域に押しかけ,集団的に保護申請すれば認められやすくなる,という前例を作ってしまったに外なりません。
 
 麻生政権下では,法治国家とは思えないことがまかり通っているように思われます。

 定額給付金だってそうです。法律の根拠があるわけではないのに,高額所得者に「遠慮」を求めている。法治国家ではあり得ないことです。

 恐ろしいのは,マスメディアがこの異常さに気づいていないということです。
 上の朝日新聞もそうです。千代田区の生活保護に関して,朝日新聞は無批判にこれを書いていますが,記者らは<特定地域で大量の人がほぼ同時に保護申請したことや、入居施設の使用期限があるなど特別な事情があった>ことにまず疑問を感ずべきでしょう。

 * * *

 結局,朝日新聞がここまで無批判に報ずるのは,派遣切り,貧困や格差といった問題をイデオロギーの問題として捉えているから,だと言えます。

 しかしこういうときだからこそ,われわれはイデオロギーを排して,冷静に事態を見つめなければなりません。

 もちろん「派遣村」に対して「かわいそうな人たちが集まっている」とセンセーショナルに捉えることが間違っているとは言いません。

 しかし先日,お正月に会った90歳を過ぎた祖父が言っていました。
 「働きたい人は職安に行ったらいいのに,なんで行かないのかね?」「なんでここにいる人は(カメラに)顔を出さないのかね?」。

 イデオロジカルなものを排して冷静に考えてみれば,昨日まで働いていた人たちが今日は生活保護を受け取っていることのおかしさに,そして,その背景にそういう人たちを「利用」しようとするイデオローグ(イデオロギーに凝り固まった人のこと)の存在に気づけるハズです。

 私たちは今一度,派遣切り,貧困,格差といった問題をイデオロギーの問題として捉えるのではなく,右派も左派も関係なく,一人の国民として問題解消のための知恵を絞るべきだと感じました。
 

tag : 派遣村 生活保護 法治国家 朝日新聞

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