わたしたちの憲法を考える(3)天皇1

 
             今日は「第一章 天皇」です。

第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
Article I. The Emperor shall be the symbol of the State and of the Unity of the People, deriving his position from the sovereign will of the People, and from no other source.

(1) 現行憲法下の象徴天皇制以外に案はなかったのか

 GHQ草案を見ていただければ分かると思いますが,天皇に関する憲法の条項はほぼGHQ草案の通りに作られています。

 これだけを見ると,当時,GHQ草案をみなが支持していたように思えるかも知れません。
 しかしみながみな「象徴天皇制にしよう」と言っていたわけではありませんでした。

 他にどういった意見があったのかを簡単に見ていきます。

 当時(私が確認したのは昭和20年11月8日の時点)の日本共産党は<天皇制はそれがどんな形をとらうとも,人民の民主主義体制とは絶対に相容れない>と主張し,<天皇制の廃止,寄生地主的土地所有制の廃絶と財閥的独占資本の解体,基本的人権の確立,人民の政治的自由の保障,人民の経済的福祉の擁護>を特徴とする『日本人民共和国』の創設を主張していました。

 当時の社会党はどうだったのでしょうか。
 社会党が主張していたのは,天皇制の存続を前提に天皇に統治権の一部を付与する,というものでした。
 あのリベラル色の強かった社会党が「天皇に統治権を付与する」と聞いて驚いたかたもいるかもしれませんが,社会党内にも(今の民主党のように・笑)右派勢力と左派勢力の対立が起きていました。
 社会党の描いた「天皇制」の姿は保革対立のcompromise妥協の産物であったのです。


 つまり,社会党の主張は実際の社会党の主張するところの「統治権」の内容は,今の憲法が認める「国事行為」の範囲とほとんど変わらない点で革新的でしたが,「統治権」という言葉を使った点で保守的であったと統括できると思います。


 当時,自由党はどうだったのでしょうか。後に同党に所属していた鳩山一郎が「軍国主義者」としてGHQにより公職追放されたように,やや(旧憲法体制に対して)保守の色彩の強い主張をしていました。
 自由党は天皇を「統治権の総攬(そうらん)者」と位置付け,天皇の統治権の「行使」を認める主張をしたのが特徴的でした(旧憲法と同じ)。
 もっとも,これと同時に天皇大権の廃止を主張することで,改正の意義の強調もわすれませんでした。


 当時の自由党と並び,保守的な政党であった日本進歩党は次のような天皇制を主張しました。
 まず天皇に統治権を認め,天皇の有する立法権は「帝国議会の協賛」により,行政権は「内閣の輔弼(ほひつ)」を必要とし,司法権は裁判所に「託す」こととしました。つまり大日本帝国憲法における天皇制を擁護する主張でした。
 また,天皇大権の一部を認めた点で,自由党の主張よりもさらに保守色の強い主張をしたのも特徴的です。

 * * *

 歴史教科書の中では,まるで戦後の日本では「象徴天皇制」のみが国民に広く受け入れられていたという印象を持っている人がいるかもしれませんが,天皇の「統治権」に関して意見の鋭利な対立が見られていたことがお分かりになったと思います。
 旧憲法における天皇制を擁護したり,あるいは天皇制そのものを廃止すべきだとしたり,必ずしも新憲法における天皇制の姿は統一されていませんでした。


 もっとも,これら旧憲法の体制を擁護する勢力はことごとくGHQによって公職追放の対象になりました。進歩党に至っては所属議員の90%近くが「軍国主義者」として公職追放の対象となり,発言力を奪われました(所属議員約270人中250人?くらいが公職追放だったと記憶しています)。
 したがって,旧憲法における天皇制が維持される余地はほとんどなく,事実上GHQが提示した「象徴天皇制」が既定路線とされていた,と言っても間違いではないでしょう。
 だからといって,象徴天皇制が不当だと考えるわけではありません。今の憲法第一条が作られるまでには,いろいろな見解が存在しており,象徴天皇制という今の皇室の姿が全てであったというわけではなかった,と言いたいだけです。


 ちなみに,この公職追放は国内の保守派を一掃することに成功する一方で,(天皇制を防共の砦としようとした)GHQの思惑に反し,皮肉にもGHQが懼れていた革新勢力の台頭を招くことになります。。
 第一条に関してはまだ述べたい点がいくつかあるのですが,長くなるので,今回のエントリはここまでにいたします。

 

theme : 司法試験・資格試験・語学試験
genre : 学問・文化・芸術

tag : 日本国憲法 天皇 GHQ 自由党 民主党 進歩党 社会党 日本共産党 象徴天皇制 軍国主義

プロフィール

くるくる

管理者:くるくる
 主に政治ニュースを取り扱っています。メディア・リテラシーを身につけて客観的に物事を見つめる能力を養うことが目的です。
 コメントは遠慮なくお寄せください。

記事一覧
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
最近のコメント
最近のトラックバック
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
未設定
--位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
未設定
--位
アクセスランキングを見る>>
リンクツリー

 
Twitter
ブログ内検索
管理人へメール
管理人へ私信を送りたい際にご利用ください。

名前(匿名可です。):
メール:
件名(任意):
本文:

カテゴリ
月別アーカイブ
タグクラウド
一君萬民ノ政治(#1)尾辻秀久(#1)思いやり予算(#1)議長(#1)構造改革(#1)法規範(#1)民事責任(#1)内閣府(#1)読売新聞(#1)コリアン(#1)自殺(#6)暴力(#6)上田清司(#1)平沼赳夫(#1)自民党(#37)中川昭一(#1)仕分け人(#1)組合(#1)法治国家(#1)非正規雇用(#1)iMac(#1)議員立法(#1)ワーキングシェア(#1)ポツダム宣言(#1)麻生太郎(#3)選挙権(#1)政府(#1)オバマ(#10)SWINC(#1)大阪市(#6)チベット(#3)重加算税(#1)年金(#2)日比谷公園(#1)扇子(#1)外国人(#2)社畜(#1)タイ(#1)鯨(#1)ネブライザー(#3)税金(#1)ベトナム(#1)岡田克也(#5)非正規(#1)緊張型頭痛(#7)後鼻漏(#13)TBS(#2)マスコミ(#36)規制緩和(#1)千葉景子(#3)高木八尺(#1)急性副鼻腔炎(#13)青木幹雄(#1)日本郵政(#1)PRAM(#1)田中康夫(#2)安重根(#1)扶養控除(#2)派遣村(#2)ブログ(#1)萩本欽一(#1)フィナンシャル・タイムズ(#1)MacBook(#1)イスラエル(#1)一票の格差(#1)追徴課税(#1)総裁選(#1)酒井法子(#1)単純所持(#1)接続時間(#1)鼻水(#13)特例会見(#1)児童ポルノ(#2)信教の自由(#1)75条(#1)社会党(#1)日の丸(#1)厚生労働省(#2)社会保険庁(#1)命名権(#1)平沼グループ(#1)鼻づまり(#13)幇助犯(#1)参政権(#1)民団(#1)Constitution(#1)平田健二(#1)平和主義(#3)NYT(#1)厳罰化(#1)議員定数不均衡(#1)国民新党(#4)護衛艦(#1)生活保護(#2)リベラル(#1)世論調査(#1)戦争(#1)朝鮮総連(#1)肝炎(#1)密約(#2)日本共産党(#3)死刑(#1)わいせつ(#1)日米安保(#2)財務省(#1)死刑廃止(#1)児童ポルノ禁止法(#1)責任(#1)大阪府知事選(#1)AirMac(#1)尖閣諸島(#1)南沙諸島(#1)政界再編(#1)法務大臣(#1)裁判員(#1)朝ズバッ!(#1)田中均(#1)ラジオ(#1)刑事責任(#1)横路孝弘(#2)日韓トンネル研究会(#1)大法廷(#1)死刑廃止論(#1)片山虎之助(#1)空知太神社(#1)消費税(#3)核兵器(#1)産経新聞(#1)天皇(#16)神社(#1)沖縄密約(#1)国家共同体(#1)民法(#2)戸籍法(#1)裁判権(#1)マルキスト(#1)おことば(#1)加藤紘一(#1)平和的生存権(#1)福田康夫(#2)二分論(#1)ピルグリム・ファーザーズ(#1)中央大学(#1)麻生首相(#1)投票(#1)winny(#1)失言(#2)カダフィ(#1)歴史認識(#1)最高裁(#3)新自由主義(#1)イラク(#1)生活(#1)市橋達也(#1)政治(#1)同意(#1)COP15(#1)訴追(#1)ワーク・シェアリング(#1)憲法(#9)子ども手当(#2)教師(#2)小泉純一郎(#4)山本孝史(#1)思想及び良心の自由(#1)guardian(#1)就任(#1)平松賢司(#1)国連(#2)報道(#1)東アジア(#1)リスク(#1)李明博(#1)みんなの党(#4)南京大虐殺(#1)北京五輪(#1)吉永みち子(#2)毒入り餃子(#2)パイレーツ・オブ・カリビアン(#1)死刑存置(#1)日韓併合(#1)Wi-Fi(#1)川田龍平(#1)食の安全(#2)環境税(#1)不法残留(#1)クラスター爆弾(#1)民本主義(#1)配偶者控除(#2)政治資金規正法(#1)悪魔ちゃん(#1)国務省(#1)telegraph(#1)安全保障(#1)中国(#27)政教分離(#2)適正手続(#1)西山太吉(#1)国民主権(#1)政治利用(#7)中曽根康弘(#1)米国(#10)小泉構造改革(#2)韓国(#9)信仰(#1)マードック(#1)佐藤栄作(#1)吉野文六(#1)起訴相当(#1)イスラム教(#2)核兵器なき世界(#1)国家戦略室(#2)無申告加算税(#1)核密約(#1)民主主義(#1)占領政策(#1)検察(#2)長妻昭(#3)イデオロギー(#2)行政罰(#1)記者クラブ(#3)前文(#2)日韓トンネル(#1)核持ち込み(#1)博士の独り言(#1)モラル(#1)Apple(#1)公明党(#7)GHQ(#1)高校(#6)非正規社員(#1)憲法改正(#4)日本(#2)Mac(#1)平手(#1)ユーラシアグループ(#1)真言宗(#1)聖域なき構造改革(#1)朝鮮(#1)大阪(#2)アジア(#1)夫婦別姓(#1)キリスト教(#2)沖縄(#2)Buddhist(#1)バッテリー(#1)核兵器のない世界(#1)被害者の権利(#1)亀井静香(#3)國体ノ護持(#1)9条(#3)不起訴不当(#1)体罰(#8)慢性副鼻腔炎(#13)外国人労働者(#1)改憲(#1)平和(#1)高田晴行(#1)GHQ(#3)首班指名(#1)国家(#1)毎日新聞(#3)副鼻腔炎(#13)衆院選(#2)外国人管理職事件(#1)外交(#1)保守(#2)西沙諸島(#1)脱税(#1)拉致(#2)地球温暖化(#2)閣僚(#2)山崎拓(#3)鼻(#13)振り込め詐欺(#1)労働市場の流動化(#1)罪刑法定主義(#1)新党日本(#2)ブッシュ(#1)即位20周年(#1)自由党(#1)成年(#1)ボートマッチ(#1)仙谷由人(#1)表現の自由(#1)外務省(#4)長島昭久(#1)年収要件(#1)ロキソニン(#2)倫理(#1)前原誠司(#1)増税(#2)宗教右翼(#1)裁判(#1)郵政民営化(#1)君が代(#2)民主党(#100)東アジア共同体(#5)判例(#2)野中広務(#1)参院選(#2)渡部恒三(#2)リアリスト(#1)普天間(#1)護憲(#1)社民党(#4)刑事罰(#1)マクリーン事件(#1)農薬(#1)大前研一(#1)国際(#1)宮内庁(#1)司法(#1)創価学会(#2)国体明徴(#1)国連気候変動首脳会合(#1)後楽園キャンパス(#1)児童手当(#1)ファシズム(#1)関門海峡(#1)日本国憲法(#5)進歩党(#1)ソマリア(#1)自衛隊(#1)パキスタン(#1)プラハ演説(#1)海上自衛隊(#1)人権(#3)派遣(#1)官房長官(#2)海賊(#1)高窪統(#1)関門海峡衝突事故(#1)改正(#1)外国人参政権(#22)頭痛(#13)衆議院(#1)自由(#1)竹原信一(#1)生徒(#7)公務執行妨害罪(#1)起訴議決(#1)ベーシックインカム(#1)開かれた政党(#1)チベット仏教(#1)グリーンピース(#1)鳩山由紀夫(#50)事業仕分け(#2)検察審査員(#1)不安神経症(#1)所得税(#1)多摩キャンパス(#1)FT(#1)比例区(#1)宗教(#1)報道の自由(#1)中西一清(#1)刑法(#1)アフガニスタン(#1)仏教(#2)田付景一(#1)阿久根市(#1)演説(#2)アダムスミス(#1)ネット(#1)正社員(#1)アジア主義(#1)クジラ(#1)伴奏(#1)年頭所感(#1)住民訴訟(#1)ノーベル平和賞(#1)差別(#2)新党大地(#2)菅直人(#4)偽装献金(#3)川上義博(#1)事件(#1)橋下徹(#2)チャレンジド(#1)朝日新聞(#2)日本テレビ(#1)ニクソン(#1)日本維新の会(#1)検察審査会(#1)中学(#1)所得控除(#2)障碍者(#2)軍国主義(#2)給付(#1)学校(#1)天皇誕生日(#1)シーシェパード(#1)平野博文(#3)象徴天皇制(#1)青山繁晴(#2)日米首脳会談(#1)ASEAN(#1)石原慎太郎(#1)指導(#1)府知事選(#1)胡錦涛(#1)コンテナ船(#2)北朝鮮(#1)玻南ちゃん(#1)イラク戦争(#2)永住外国人地方参政権付与法案(#1)捕鯨(#1)小沢一郎(#25)グローバリズム(#1)