卒業式で起立・斉唱せず、再雇用拒否で都に賠償命令判決
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080207-00000042-yom-soci
都立高校の卒業式などで国旗に向かって起立し、国歌を斉唱しなかったことを理由に、定年後の再雇用を拒否されたのは違法だとして、元教職員ら13人が、都に損害賠償を求めた訴訟の判決が7日、東京地裁であった。
中西茂裁判長は「職務命令に従わなかっただけで再雇用しなかったのは、合理性や社会的相当性を著しく欠く」と述べ、原告1人あたり約210万円の賠償を都に命じた。一方、起立・斉唱を命じた校長の職務命令自体は合憲と判断した。
(2008年2月7日15時33分 読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080207-00000042-yom-soci
公法上の法律関係に関する話なので,簡単に解説を施しておきます。
・ 東京都は公務員である教職員に対して国旗に向かって起立すること,および国歌を斉唱することを命じている。
・ それに従わなかったものは職務命令違反として責任を負うべき旨を通達にて規律する(行政内部規律)。
・ 再雇用の際に,都は職務命令違反を主要な理由としてこれを拒否した。
・ 原告側はこれを不服として損害賠償を求めている。
一見すると,教職員側の「全面勝訴」のようにおもわれますが,そうではないので気をつけて見なければなりません。
まず裁判所は,職務命令,すなわち国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すべきことを命ずる通達を合憲としています。
元教職員側は憲法の「思想及び良心の自由」(19条)が保障する,「特定思想の強制の禁止」に抵触するとして,斯かる職務命令は違憲である,との主張をしてきましたので,裁判所はこれを退けた形になります。
裁判所は,あくまでも再雇用を認めなかった行政側の裁量に逸脱・濫用があったことを理由に違法としていますので(行政事件訴訟法30条),違法の根拠については見誤らないようにすべきです。
裁判所は判断の理由として,教職員の思想に関する権利侵害の事実についてはほとんど根拠に挙げていません。君が代に反対する/しないという思想そのものを,裁判所が法的な見地から評価してはいないのです。
裁判所は,再雇用を認めなかったことの違法性について次のように判示しています。
1.<過去には起立・斉唱しなかった教職員も採用されている>。
2.<職務命令違反は1人を除き1回にとどま>る。したがって,違反の程度は軽微というしかなく,<定年までの勤務成績を総合的に判断した形跡がない>。
私としては法律論として裁判所の判断も分からなくもありませんが,そもそも再雇用するかどうかの判断は都に広い裁量権が認められており,都の裁量権の行使が裁量の範囲を逸脱するかどうかについては,異論があってもいいと思っています。
そもそも一度でも職務命令違反をなした者を,再び雇用するということを,民間企業ではまずしないでしょうからね。民間レベルで考えれば,都の判断は決して間違ったものとは言い難い面もあります。
それはともかく,そもそも国歌を斉唱しない教職員がいることは問題視されてしかるべきでしょう。
テレビ朝日でかつてやっていた「ニュースステーション」でおこなわれた世論調査によると,君が代を国歌と思わない国民は半数近くに上っていたとおもいます。しかもその大勢が君が代についてあまり良く知らない,というのです。
実は私もその一人です。
フランスの国歌「ラ・マルセイエーズ(La Marseillaise)」は,フランス革命期に義勇軍がテュイルリー宮殿を襲撃した際に歌われたものであることを知っていますが,君が代のことはあまりよく知りません。
ナショナリズムとは無関係に,子供たちに君が代について考えさせる機会を与えたらどうでしょう。つまり,君が代斉唱時に起立させ,これを歌わせて・・・という,当たり前のことをさせないで,子どもたちに君が代に反対する教師の姿を見せるな,ということです。
卒業式の日に,一部の教師だけが起立せず,国歌を歌わない状況を見て,生徒は何を思うのでしょう?
もちろん教師だって人間です。彼らの個人的な思想は尊重されて然るべきです。
しかし教育の担い手として,子供と直接ふれあう数少ない大人として,子供たちの利益を自分の個人的な利益に優先させる義務があります。
「教育を受ける権利」は,大人が「教育を施す権利」ではありません。
子供が「教育を受ける権利」であり,子供が大人に対して学習環境を整備するよう要求する権利,すなわち「学習権」なのです。
問題の教師はそのことを今一度よく考えるべきでしょう。
* * *
以下は各新聞社の報道姿勢について。立ち位置が良く分かって興味深いですよ。
(朝日新聞)
「君が代で起立せず」不採用の元教諭勝訴 「裁量逸脱」
2008年02月07日20時21分
都立高校の卒業式などで職務命令に反して「君が代」の斉唱時に起立しなかったことを理由に、都が退職後に嘱託職員として採用しなかったのは違憲だとして、元教諭ら13人が都に慰謝料などを求めた訴訟の判決が7日、東京地裁であった。中西茂裁判長は、都による不採用の判断は「職務命令違反をあまりに過大視しており、裁量を逸脱している」として、13人に計2700万円を支払うよう命じた。
一方で中西裁判長は、君が代斉唱時に起立を命じた職務命令は、憲法が保障する「思想及び良心の自由」に反せず合憲だと指摘。起立しなかった教師の処分を含め、都教委が国歌・国旗の取り扱いを定めた03年の通達についても、「教育は不当な支配に服しない」とした旧教育基本法に違反しないとの判断を示した。
その上で判決は、職務命令違反を理由に不採用とした都教委の判断について「元教諭らは積極的に式典の進行を妨害したのではなく、起立しなかったこと自体がただちに採用を否定するほどの行為というのは疑問だ」と述べた。
(日経新聞)
君が代訴訟、都の再雇用拒否「違法」・東京地裁が賠償命令
卒業式の君が代斉唱で起立しなかったことを理由に、東京都が退職後の再雇用を拒否したのは違憲だとして、元教職員13人が都に計7200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(中西茂裁判長)は7日、「再雇用者の選考の裁量権を逸脱し違法」と判断、都に計約2700万円の支払いを命じた。
訴えていたのは都立高の元教諭と元司書。訴状によると、2003―05年の卒業式で君が代を斉唱せず、都教育委員会から職務命令違反として戒告や減給処分を受けた。元教諭らは定年退職後も非常勤での嘱託採用を申請したが、都教委は処分を理由に不合格とし、再雇用しなかった。
判決理由で中西裁判長は、職務命令の違憲性について「卒業式での国旗掲揚や国歌斉唱は全国で広く実施され、職務命令に必要性や合理性がある。思想や良心の自由を定めた憲法に反するとはいえない」として、原告の違憲主張を退けた。 (20:54)
(共同通信。中日新聞等)
「裁量を逸脱、乱用」 君が代訴訟で東京地裁
2008年2月7日 17時47分
卒業式の君が代斉唱の際に起立、斉唱しなかったことを理由に、退職後に嘱託職員に不採用としたのは違法として、元都立高の教職員13人が1人当たり約560万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は7日、「裁量を逸脱、乱用している」として、計約2750万円の賠償を都に命じた。
斉唱時の起立の徹底を求める都教育長の通達と、それに基づく校長の職務命令が憲法や旧教育基本法に違反するかどうかが争点だった。判決理由で中西茂裁判長は「思想や良心の自由を侵害しない」などとして違憲・違法性を否定した。
その上で「積極的に式典を妨害しておらず命令違反は重大ではない。不採用としたのは社会的相当性を欠く」と判断した。
読み比べてみると,「一人あたり210万円の賠償命令」と伝える読売新聞に対して,他紙は「総額2750万円の賠償命令」と記しているところが印象的でした。後者のほうが大きな問題のように印象づけられますね。
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