[司法]菅家さん冤罪について思う法曹の責任

 
             約一ヶ月ぶりの更新となってしまったことを心よりお詫び申し上げます。
 また、コメントへの返信もできていないことを歯がゆく思いますが、きちんと一つ残らずコメントを拝読させていただいておりますし、ブログを通じて、子ども手当などの諸問題に関してメールを送ってくださったお二人にも心より感謝いたします(まだメールのお返事ができていない方がいます。今週末にお返事いたしますので、今暫くお待ち下さい。)。

 先日、栃木県足利市で平成2(1990)年に4歳女児を殺害したとして無期懲役となった「足利事件」の菅家利和氏が、ようやく再審において無罪判決を得ました。
 これまでの18年間の苦しい期間はもちろんのこと、昨年6月に釈放され、無罪判決が出るまで、菅家さんは、衆議院選挙でも投票に行くことができないなど多くの社会的不利益を受けてきました。

 メディアが言うように、冤罪を生み出す原因は、警察・検察、そして裁判所にも当然あります。ですが、メディアと同じことをここで書いても、便所の落書き程度のものにしかならないでしょうから(笑)、ここではあえて違った角度から今回の冤罪事件について考える資料をご提供しようと思います。

 菅家さんが有罪の判決を受けたのを聞いて、ほとんどの人は「なぜ"検察は"無辜の人を有罪にしようとしたのか、なぜ"裁判所は"無辜の人に有罪判決を言い渡したのか」とお考えになるでしょう。

 ただ、本件で問題となった「DNA鑑定」。もちろん当時は、学者を中心にその無確実性が指摘されていたのは事実ですが、DNA鑑定の結果を信じたのは、別に裁判所や検察官だけではなかったようです。
 二審から菅家さんの無罪獲得のために奮闘された佐藤博史弁護士の話として、このようなものがあります。

Q 菅家氏の公判供述が二転三転していますが、一審段階で、菅家氏は無実ではないかと考える人はいなかったのですか。
 ええ、ほとんどいませんでしたね。
 それは菅家さんが任意同行された初日に自白したこと、以後、捜査段階でも自白を維持したことだけでなく、公判廷でも認めたこと、一旦否認に転じたもののすぐに自白した経緯からです。
 それに菅家さんが本格的に否認に転じたのに、すぐに結審して2週間後に判決日が指定されたということは、裁判所が菅家さんを有罪と決め込んでいたことを意味しますが、そのことについてもおかしいと思った人はいなかったのです。
 私は控訴審の段階から弁護人になりましたが、一審の弁護士から「菅家さんは犯人である」と聞いていましたので、弁護人になったときは半信半疑でした。しかし、東京拘置所で菅家さんに初めて接見したとき、「犯人ではない。菅家さんは無実だ」とすぐに思いました。
 それからもう15年になりますが、以来無罪の確信が揺らいだことは一度もありません。

 http://allatanys.jp/B001/UGC020006020090508COK00288.html
 佐藤弁護士が言うように、当時は、検察官や裁判官だけではなく、菅家さんの利益を守るべき立場にあるはずの第一審の弁護人までもが「有罪」を確証していたのです。

 だからこそ、実際の裁判でも、第一審においては、菅家さんは「公判廷」で自白するに至ったのです。
 公判廷における被告人の自白は、とても大きな意味があります。捜査段階で取られた自白とは雲泥の差があるほど重いものです。裁判官の面前で、公開法廷での自白ですから。

 だからこそ、目の前で自白する菅家さんを見て、裁判官も菅家さんが有罪であるとの心証を形成したに違いありません。

 私が実際に関係者の方から聞いた話では、菅家さん自身、あまり言いにくいことではありますが、(あえて言葉は曖昧なものを使いますが)その性格として「人を信じやすい」「相手に言われたことに対して"はい"と答えてしまう」、そんな部分があるそうです(これは別に悪口じゃないですよ。実際に、菅家さんにあった方に聞いた話です。)。

 だから、捜査機関はもちろん、当時の弁護人から言われたことに、菅家さんは従順に従ったに違いありません。本当は「やっていないのに」、事実上、弁護人からも公判廷での自白を迫られた菅家さんの苦しみは、想像に絶するものがあるでしょう。

 佐藤弁護士によれば、第一審の弁護士から「菅家さんは犯人」であると伝えられていたそうです。
 はじめは佐藤弁護士は弁護を引き受ける気はなかったそうですが、調べてみたら、当時、控訴審から菅家さんの弁護にあたっていた別の弁護士は、菅家さんと接見して事情を聞くことさえしていなかったそうです。
(因みに、刑事訴訟における弁護人の選任は、審級毎にしなければいけない、とされています。)

 「冤罪=裁判所・検察批判」というのも、決して間違ったことではありません。現実に強引な捜査がなされることも大いにあるのです。(私はその意味でも、取調の可視化からは避けては通れないものだと思います。)

 ですが、なぜ菅家さんが有罪になったのか、ということを考える上において、有罪にさせてしまった弁護士の責任ということも考える必要があると思うのです。
 菅家さんは、たまたま佐藤弁護士のような方が弁護についてくれたからよかったものの、第一審では情状でしか争っていませんし、佐藤弁護士曰く控訴審ではろくに菅家さんに会おうともしていなかった弁護人が弁護をしようとしていたわけですから、それだけを見ても菅家さんが冤罪となった原因を構成する、といえるでしょう。

 もちろん菅家さんを冤罪に追い込んだのは、これだけの問題ではありません。実際、裁判に関わった法律家以外の専門家たち、有罪と信じて疑わなかった当時のメディアにも大いに問題があるでしょう。

 無罪判決が確定した現在にあっても、メディアの視野は狭いままです。せめて自分たちの当時してきた報道を見直して、真摯に反省してはどうでしょう。メディアだって、菅家さんを当初から犯罪者扱いしてきたのですから。

 冤罪の原因は、極めて複雑で端的に言い表せないものだと思います。
 多角的な視野をもって、冤罪防止のために策を講じる必要があります。検察、裁判所批判だけで終わる今の世論を見ていると、第2の菅家さん(もう既にいるかもしれませんが)が出てもおかしくないように思いますね。

theme : 法律全般
genre : 政治・経済

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