「体罰と犯罪」頭部への打撃3(東京高裁昭和56年4月1日判決)

 
            (判決の内容)※東京高裁判決をそのまま引用する形でご紹介します。

〜実際の判決を見る前に〜

 この東京高裁の判決は、
いやしくも有形力の行使と見られる外形をもつた行為は学校教育上の懲戒行為としては一切許容されないとすることは、本来学校教育法の予想するところではない
という一文が有名です。
 この一文、法律用語が入っているので分かりにくいかも知れません。しかし、語弊をおそれずに申し上げるとすれば、
「仮にも暴力などの物理的な力を振るう行為は、学校教育法が認めている教師の懲戒行為として一切否定したとは、学校教育法を作った立法者も考えていなかっただろう。(=だからこそ暴力などの物理的な力を振るっても良い場合がある)」
ということです。

 したがって、この判決がいわば「教師による子どもたちに対する暴力を広く正当化した」ものと評価する方もいるように、すくなくとも東京高裁は、教師が、教育目的で、体罰にわたらない程度の(軽微な)暴力(有形力の行使)を認めたことは間違いありません。

 しかし、私個人は、安直に判決のこの有名な一文を引用して体罰を広く肯定する意見には、にわかに賛同できません。なぜなら、裁判所も、この一文を導くまでには、かなり苦労して理論を構築しているからです。
 そのため、この一文だけに目を奪われてしまうと、間違った理解に繋がるおそれがあります。そのため、少し詳しめに本判決の内容を見ていきましょう。

(1)A教諭の行動の動機・目的

東京高裁は、まずA教諭によるV君の頭部への打撃について、そのA教諭の行動の動機・目的について検討を加えています。(以下、判決の内容に依拠して整理します。)

* * *

A教諭の行動の発端は、V君がA教諭と一緒に活動することを知って、「何だ、Aと一緒か」という言葉を発すると共に、ズッコケの動作をとったことにある。

しかし、その発端となった言動をしたV君は、ちょっとした軽い悪ふざけの気分で、無造作にひょうきんな仕草をとったに過ぎないものである。
また、A教諭に対して面と向かって殊更にしたわけではなく、仲間の生徒同士の間で悪ふざけをしていただけである。

ただ、A教諭がV君の悪ふざけをたまたま現認(げんにん)したために、それに激発されて直ちに冷静さを失い、教師としての立場を忘れて、前後の見境なく憤激したというのは通常あり得ないことである。

むしろA教諭としては、V君が中学1年のときに国語の担任をしていたことから、V君が陽気で人なつこい反面、落ち着きがなく軽率なところがあるという性格を知っていた
それに、V君は、A教諭に対して話しかけたり、ふざけたりするようなことも比較的多かったので、A教諭としては、V君に対してある種の気安さと親近感を持っていたのも事実である。

さらに、A教諭の年齢・教師としての経験・教育熱心な日頃の真面目な勤務態度等を考慮すると、A教諭の心情としては、V君が自ら望んで中央委員に選出されていながら、(A教諭が感じていた)従前の軽率な性格がまだ直っていないと思い、その軽はずみな言動をたしなめながら行動に出た、というのが事の真相である。

したがって、A教諭の行動の動機・目的の主要な本質的部分は、中学二年ともなったV君に社会生活環境のなかでよく適応していけるような落ち着いた態度を身につけさせるため、教育上生活指導の一環としてその場で注意を与えようとするにあったものと認めて差支えない

* * *

東京高裁は、A教諭がV君の頭部に打撃を加えた行為について、その目的や動機に関しては、一部証言や原判決で指摘されていたような、V君がA教諭をいわば小馬鹿にする言動をしていたことにA教諭が憤激したことにある、とは認めませんでした。
むしろ、A教諭の攻撃の目的や動機は、V君の性格等を把握していた教師として、生活指導の一環として注意を与えることにあった、として、肯定的な評価を加えています。

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