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Il testimone...

人生朝露の如し 一日を大切に記していきます

[天皇] 憲法の抱えるジレンマ

 連日取り上げている「天皇政治利用」に関して、ネットではどのような意見があるのか調べている際に、竹田恒泰・慶応大学講師のブログを発見しました。

 私は、竹田さんのことを以前からテレビで拝見するなどして存じ上げていましたが、憲法学の研究者をされているのは知りませんでした。

 竹田さんのブログを見ますと、「政府の中国副主席会見要請は憲法違反」とのタイトルが付けられたエントリを見つけたので、興味深く拝見しました。
 しかし、どうやら竹田さんも本件が憲法違反であることの根拠までは具体的に指摘できていないように見受けられます。

<断言しよう。宮内庁長官の最大の任務は、時の政権が天皇政治利用しようとした時に、これを阻止することにある。宮内庁長官にとってこれ以上の任務は憲法学的に理論的に存在しない。
 日本国憲法には、政府が天皇政治利用しようとした時、これを阻止する方法が存在しない。このことは日本国憲法の最大の欠陥といえる。>

 宮内庁長官の最大の任務を「天皇政治利用を阻止すること」とするのは、やや厳しいように思います。

 「宮内庁長官にとってこれ以上の任務は憲法学的に理論的に存在しない」とされていますが、そもそも日本国憲法は宮内庁長官の任務(職務)について一切規定を置いていませんから、憲法学者がそれらの指摘をされている例は見たことがありません。

 もっとも、竹田さんもご指摘のように、<日本国憲法には、政府が天皇政治利用しようとした時、これを阻止する方法が存在しない。このことは日本国憲法の最大の欠陥といえる>というのは同感ですね。

 そもそも、憲法は天皇に関してジレンマを抱えているんです。たとえば、以下の規定を見てください。

第4条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

 憲法4条の規定です。
 憲法4条を素直に読めば、天皇には「国政に関する権能」はない、すなわち、天皇は政治的な権能の一切を持っていない、ということになります。
 これを仮に「天皇は政治にノータッチの原則」とでも呼んでおきましょう。

 しかし、天皇の国事行為を定めた憲法7条は次のような規定が置かれているのです。

第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
 1.憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 2.国会を召集すること。
 3.衆議院を解散すること。
 4.国会議員の総選挙の施行を公示すること。
 5.国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
 6.大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
 7.栄典を授与すること。
 8.批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
 9.外国の大使及び公使を接受すること。
 10.儀式を行ふこと。

 憲法7条の規定する天皇の国事行為を見て気づかれたかたもいるでしょう。
 そうです、第4条には「国政に関する権能はない」と書かれているのに、第7条には、衆議院の解散ですとか、憲法改正の公布など、どう考えても政治的な権能としか言いようがないものがあげられているのです。

 つまり憲法は、「天皇は政治にノータッチの原則」があると言う一方で、天皇の国事行為として政治的な事柄をあげているわけです。

 この矛盾に関して、憲法学者は、一般的に次のような説明をします。

1.憲法は、天皇に国政に関する権能の一切を認めない。
2.憲法7条に規定する天皇の国事行為の中には、政治的な行為も含まれているが、憲法7条は天皇の国事行為に際して「内閣の助言と承認」を要求していることから、天皇の国事行為に関する実質上の決定権は内閣にある、と考えられるので、結局、天皇は国政に関する権能を有しないことになる。

 ちょっと難しい説明かも知れませんが、要は、天皇の行う国事行為は、事前に内閣が決めることであるので、政治的判断を天皇が行うわけではない、内閣が決めたことを天皇が形式的に行うに過ぎない、ということです。

 そこで、問題となるのが「天皇陛下の政治利用」の問題です。
 鳩山首相は、官房長官を通じて、天皇陛下と中国国家副主席との会見を要請し、宮内庁は内閣の指示に従って会見をセッティングしました。私を含め、これには「天皇陛下の政治利用」との批判があります。

 しかし、憲法は、早い話が、天皇のすることのすべては事前に内閣で決めるんだ、政治的な事柄を天皇に行わせるのは内閣なんだ、と言っています。
 つまり、憲法は、内閣が天皇陛下を政治利用する危険を半ば認めてしまっているのです。

 竹田さんのおっしゃる「日本国憲法には、政府が天皇を政治利用しようとした時、これを阻止する方法が存在しない」というのも、おそらくこの憲法上のジレンマを指摘するものだと思います。

 もちろん人の行動を規制するのは法だけではありません。倫理、道徳といった価値観もまた人の行動を規律する根拠になるでしょう。
 私は、天皇陛下の日本国の象徴としてお立場を守るためには、やはり天皇陛下が政治的に利用されることはあってはならず、どの国からの要請にも原理・原則、ルールに忠実に従い、常に公平な立場から天皇陛下が会見を受けるかどうか決めるべきです。このことは、天皇陛下自身も望まれていることだと思います。

 平野官房長官は「日中関係は重要だ」の一点張りで、「1ヶ月ルール」を無視して特別に会見をセッティングするよう求めたそうですが、このような不平等な取扱いは断じて容認してはなりません。

 一度、例外を許容すれば、原則は骨抜きになり、原則と例外の逆転を招くことになります。民主党政権は悪しき先例を作るべきではありません。
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テーマ:天皇陛下・皇室 - ジャンル:政治・経済

  1. 2009/12/14(月) 02:03:31|
  2. 政治
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:11
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コメント

補足

 エントリでは国事行為にしか言及しませんでしたが、天皇がすることのできる行為として、憲法は、国事行為の他、天皇の私的行為、そして公的行為をすることを認めている、と考えるのが普通です。
 公的行為の中には、外国の大使などとの会見も含まれている、と考えられています。
  1. 2009/12/14(月) 03:00:15 |
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  3. くるくる #-
  4. [ 編集]

ジレンマ

こんばんは。くるくるさま。
社民党が反対したのには、何かむず痒いものがありましたね。9条だけ護憲派と思っていましたが、本当に護憲派のようです。土井たか子元党首も、憲法学者でしたね。

日本国憲法は学問に値するかどうかすら、微妙です。他の例を挙げるならば、もちろん自衛隊。

ところで、本エントリを興味深く拝見させていただきました。このジレンマ、妙なディジャブ感があったのですが、思い出しました。大日本帝国憲法です。
55条ですが「国務各大臣は天皇を輔弼(ほひつ)しその責に任ず。すべて法律勅令その他国務に関わる詔勅は国務大臣の副署を要す」(読みづらいので、片仮名は平仮名にしました)とあります。

「明治天皇は大元帥なのに、結局、大臣が決めてたんじゃないか」と思ったものです。統帥権といいながら、「責任」の所在、すなわち権利の所在は内務大臣にあったのです。「元老」と呼ばれた、偉い人です。

以上は現在の「昭和天皇の戦争責任」のジレンマになっていますが、日本国憲法の7条に、その欠片を見ます。おそらく、占領日本とGHQのすったもんだの末に、破片になって残ったのではないでしょうか。

4条まで、軽快にGHQが決めていて、このあたりで、「ちょっと待った」が入ったと。そして米国の当時のジレンマ、昭和天皇を利用した政府機構の間接占領を考えても、7条は飲むしかなかったはずです。

と、またまた長文失礼いたしましたが、「誰が作った」のあたりを想ってみました。
  1. 2009/12/14(月) 21:28:09 |
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  3. D****** #-
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2009/12/15(火) 07:03:16 |
  2. |
  3. #
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やっぱり政治利用だと思う

こんにちはぁ~。

この問題、気になっていたのですが
数日忙しくて出遅れました。

法律にお詳しい(というか専門家?)くるくるさんは
どうお考えだろうかとお訪ねしました。

天皇陛下の国事は内閣が決定する。
天皇陛下の外交は重要であり、政治的な意味を含んでいることは否めません。
国の象徴である以上、政治とは全く関係ない存在と考えるのは無理がありますよね。

この度は自社さきがけ連立政権が決定した1カ月ルールを無視し、
権限のない小沢氏が手を突っ込んだ、というところに「政治利用」という批判が起こったのだと思います。
幹事長のアナタに何の権限があって?という疑問と、小沢氏の強引なやり方に対する怒り。
小沢氏のみならず、江沢民派である副主席の、中国共産党内の政争にも利用されたのではないかと考えています。「公務はルールに則とって公平に」しかし、中国の副主席だけが「特例」を認められた。これが副主席(中国政府)に利することにならなければ良いのですが。

民主は「日米中、正三角形外交」という妄想を抱いています。
急激な経済成長と軍事拡大を遂げ、国家概念をもって横暴ながらも外交戦略を進める中国、そしてアジア経済の軸を中国に移した米国。小沢氏に操られる国家概念のない首相のもと、国力が衰退しそうな日本。この三国に、等距離外交が成り立つはずがない。妄想だけにして頂きたいです。
  1. 2009/12/15(火) 17:12:52 |
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  3. 鴻 #FDXVSfgk
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D****** さん

 こんばんはー

> 社民党が反対したのには、何かむず痒いものがありましたね。9条だけ護憲派と思っていましたが、本当に護憲派のようです。土井たか子元党首も、憲法学者でしたね。

 憲法解釈では、かなり少数説的な発想をされているようですが、おおむね憲法を思想の根源としている点は一貫しているようです。

> 日本国憲法は学問に値するかどうかすら、微妙です。他の例を挙げるならば、もちろん自衛隊。

 私は何人もの憲法学者を知っていますが、自衛隊が憲法に違反していないと断言した学者を一人も知りません。
 私は、憲法学において、明確な形で自衛隊は違憲である、と言うべきだろう、と思います。私は純粋な解釈論として、自衛隊違憲説を支持しています。
 なお、これは、自衛隊の必要性を否定するものではなく、単純に憲法適合性がないことを指摘したまでのことです。

 ご指摘のとおり、明治憲法も多くのジレンマを抱えていました。
 補足しておきますと、そもそも、当時の内閣総理大臣は、他の国務大臣と並列的な地位にありました。私たちはつい当時の内閣総理大臣が内閣の長であると思いがちですが、当時はそのような上下関係はなかったのです。

> 「明治天皇は大元帥なのに、結局、大臣が決めてたんじゃないか」と思ったものです。統帥権といいながら、「責任」の所在、すなわち権利の所在は内務大臣にあったのです。「元老」と呼ばれた、偉い人です。

 間違いありません。内務省の問題は極めて大きかった、との認識です。
 しかし、そのようなことは、明治憲法には書いていませんでした。内務省も他の省と変わらない行政機関の一つに過ぎなかったのです。

> 以上は現在の「昭和天皇の戦争責任」のジレンマになっていますが、日本国憲法の7条に、その欠片を見ます。おそらく、占領日本とGHQのすったもんだの末に、破片になって残ったのではないでしょうか。

 おっしゃるように、これは「欠落」と「名残」の両面だと考えます。
 現在、多くの学者が「三行為説」をとっています。つまり、天皇陛下のなしうる行為は、憲法の定める国事行為、天皇陛下が個人的になされる私的行為、そして、それに加えて憲法には規定していない公的行為の三つだと、多くの学者が考えています。
 今回問題となるのは、公的行為です。憲法に規定されていない行為ですから、憲法的なジレンマは避けられません。

 小沢氏は、おそらくそれを知っているに違いありません。天皇を政治利用している、というよりは、憲法の欠陥を政治的に利用している、といったほうがいいかもしれませんね。
 
  1. 2009/12/15(火) 21:54:37 |
  2. URL |
  3. くるくる #0S.Kwhuo
  4. [ 編集]

非公開コメントさん

 了解しました。後ほど、TBしておきますね♪
 
  1. 2009/12/15(火) 21:57:45 |
  2. URL |
  3. くるくる #0S.Kwhuo
  4. [ 編集]

鴻さん


> 法律にお詳しい(というか専門家?)くるくるさん

 ここだけの話、いちおう実務家やってます(笑)。

 おっしゃるように、天皇陛下の行為の中には、政治色の強いものもありますよね。だから、政治的なことをいっさいさせられないか、と言われれば、そうではありませんね。

> 権限のない小沢氏が手を突っ込んだ、というところに「政治利用」という批判が起こったのだと思います。

 私もそうおもいます。一度、宮内庁も断っている事案です。
 報道に寄れば、小沢さんが平野官房長官に「ちょっとよろしく」と言って会見をセッティングさせたという事実が認められます。
 しかし、小沢さんは内閣の構成員ではありません。与党第一党の幹事長に過ぎません。小沢さんは、一種の口利きに近いことをやっている、ということです。

> 小沢氏のみならず、江沢民派である副主席の、中国共産党内の政争にも利用されたのではないかと考えています。「公務はルールに則とって公平に」しかし、中国の副主席だけが「特例」を認められた。これが副主席(中国政府)に利することにならなければ良いのですが。

 あの副主席は、エリート中のエリートですから、彼が天皇陛下と会う意味は大きかったと思われます。

 今回が天皇陛下が日本で要人を出迎える、という形になっているので、まだ許容できます。
 しかし、これから、小沢さんがやたらと推し進めている、「天皇陛下のご訪韓」などの話は到底許容することができません。

 今回の特例会見が、その布石にならなければいいなあ、と切に願っています。
  1. 2009/12/15(火) 22:14:56 |
  2. URL |
  3. くるくる #0S.Kwhuo
  4. [ 編集]

国事行為?

こんばんは。くるくるさま。
12月16日産経新聞のコラム「産経抄」にて、小沢幹事長への皮肉たっぷりの反駁がありました。

一部、「?」と思った箇所があり、くるくるさまのご見解をうかがいたく思いました。

「(小沢幹事長は)天皇陛下と外国要人の会見を内閣の助言と認承が必要な国事行為と思われているようだが、憲法にはどこにも書いていない」(12/16産経抄より)

書いてますよね。7条に。この産経抄、誰が書いたのでしょう。
  1. 2009/12/16(水) 21:04:38 |
  2. URL |
  3. D****** #-
  4. [ 編集]

D******さん

 取り急ぎお返事いたします。
 補足として、このページのコメント一番上に、私が書いていますが、外国要人との会見は、憲法7条9号には該当しない、とするのが憲法学説の大勢となっています。

 産経抄の言うように、憲法上明確に定められているわけではないのですが、外国要人との会見は、天皇のすることができる「公的行為」に含めて考えるのが一般的です。

 少しややこしいので、整理しますと、天皇陛下がすることができる行為として、憲法は、国事行為のみをあげていますが、厳密には以下の三つがあげられます。

1.国事行為(憲法上に明文あり)
2.私的行為(天皇陛下が指摘に行う行為)
3.公的行為(憲法に規定はないが、天皇の行う公的色彩の強い行為)

 なお、「3.」は、憲法学説が言っていることで、このような三つの行為を天皇はなしうる、と考える見解のことを「三行為説」と言います。
 もちろん、D******さんがご指摘されたように、「憲法が規定していないとは考えられない」とする見解もあり、そのような見解は「二行為説」と呼ばれることがあります。この見解は、憲法に定めのない「公的行為」を認めない見解です。

 取り急ぎ、お返事いたしました。また、疑問に思われた部分がありましたら、お気軽にご質問ください。
  1. 2009/12/16(水) 21:36:33 |
  2. URL |
  3. くるくる #-
  4. [ 編集]

ありがとうございます。

ありがとうございます。くるくるさま。
たいへんうれしく思っています。しかも、無償‥。
わたしは、近い将来、くるくるさまは出版すべきだと思っています。
その際は、印税でお返しさせていただきます。
  1. 2009/12/16(水) 22:04:01 |
  2. URL |
  3. D****** #-
  4. [ 編集]

D******さん

 簡単にではございますが、エントリにしておきましたので、ごうぞご参考になさってください。

 憲法の学説は、とても複雑でして、あーでもない、こーでもない、と言っております。
 D******さんが持たれた疑問はしごくごもっともで、こういう「わかりにくさ」が憲法の欠陥なんだ、と私は思います。

 いつもお褒めのお言葉ありがとうございます。
  1. 2009/12/16(水) 22:23:55 |
  2. URL |
  3. くるくる #-
  4. [ 編集]

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